ミツメ『eye』のこと

eye

eye


ミツメのインストアみてたら蚊が飛んできて、わたしはひとの5倍ぐらい蚊にさされやすいので警戒して振り払おうとしたら思わずつかんでしまって掌のなかで蚊がバラバラに崩れていったんだけど、まだライブやってるしとりあえずティッシュで拭いておいたままアンコールまで乗り切って、わくわくしながら特典会の列に並んだらみんなが握手してたんで戦慄が走りましたね。「あ、あ、あ、握手なんてできねぇよあんなかっこいい男の子たちとこんな穢れた手で!!!」などと思い列から脱出しようと迷うも特典のほしさに負けてウェットティッシュで丁寧に手を拭いて挑んだら、ふつーに「こちら記念品でーす」て渡されて終わりました。日曜日の小さなドラマです。



しかしほんとにミツメはかっこいいな〜。ギター2本が複雑かつソフィスティケイテッドに絡むリフも小気味いいし、そのギターの絡みを邪魔しないようにシンプルなラインをおさえるベース、ドラムのアレンジはさすが。エフェクターいっぱい並べてみんなで楽器を持ち替えて展開されるライブも超たのしい。けど、なによりとにかく節回しの秀逸さが大好きなんです。『eye』というアルバムが出たんですが、さいしょ聴いたときは地味だな〜と思ったんだけど、とんでもない、革命と野心に満ちた作品です。7インチで聴いていた「fly me to the mars」、ライブではみんなが弦楽器を鍵盤に持ち替えて、スペイシーな電子音の霧のなかを言葉が泳いでいくような、まごうことなき名曲なのですが、この曲がデンと2曲目に構えられてる頼もしさ。そして3曲目「cider cider」のイントロ♪甘い汁の、空き瓶を覗けば〜、を聴いたときの衝撃といったら!4小節イントロを奏でると思ったら最後の3/4のところで♪あまーい汁の〜て入ってくるんですよね、表で弾いてたと思ったらいきなり裏のリズムでつんのめってきたあげくにあのメロディ充てるかね!っていう、ほんとすごいんだよなぁ。説明できてないけど。だいたいどの曲もイントロの入り方が革命的だなってミツメ聴いてて思うけど、この曲は輪をかけて鮮やかに期待を超えててビビります。ダブっぽい処理もクールだぜ。 あと「煙突」っていう、7インチに入ってた曲が大好きなんですが、この曲の節回しも驚きの連続だったなぁ。


オイルにまみれて泥だらけ 君が整備したマシンで街をゆく 夜明けに追いつく
白煙をあげる煙突が急に光をさえぎって ふたりしか見えなくなってた


1回目の「夜明けに追いつく」の発音が「ツェ」てきこえるのがいいですよね。「つ」の発音印象的なのよね。破擦音がね。「煙突」の「つ」もね。あと音源では「急に」と「光をさえぎって」の間に唾をのみこんでる感じが好きです。てかかわべさんは耳がいいですね。ミツメはポップだけどけっこうメロディが動くから難しいと思うんだよなぁ、歌うの。でもあんまり音を外すのは見たことないなぁ。「towers」とか難しいと思うんだよなぁ。


陸橋に差し掛かった時 ミラーに映ったのは髪の長かった頃の君だったような


この♪陸橋に差し掛かったとーきー、の美しさ!あらゆる日本語の音楽で、こんなにも「陸橋」という単語をセクシーにロマンチックに響かせたひとがいるか!と。ここでも「映ったのは」の「つ」が活きてる。♪陸橋に差し掛かったとーきー ミラーに映ったーのは、と歌われただけでぶわーーっと、陸橋・夜の高速・ドライブ・光の束、という絵がパノラマに広がっていく。情景描写というのはおもに言葉をつかって、書いて、えがくことで、風景を浮かび上がらせていると思うんだけど、ミツメのそれは、節回しのロマンで映し出す。眼球の記憶のみならず、その体感すら蘇らせるように思える。言葉ほど確かな景色ではないけど、小節を泳ぐ言葉とメロディとアレンジは、まるで8mmフィルムのようなアナログな光と、ぼんやりとした記憶の感触を描き出す。ように、思える。「煙突」は、もともとの、記憶のヴェールを拭う間もなくわずかな光だけをもたらすような7インチ版のアレンジも好きですが、やっぱりアルバム版で、リズムがはっきりしたことによって「陸橋に」という言葉の美しさが前へ出てきたように思います。あとライブ栄えするんだよな〜。後半ジャガーディストーションするとこがめちゃくちゃかっこいいぜ!


いやー、ほんと日本語の音楽の革命だよ『eye』。これだけ凄いながら最前線で売れそうな匂いもぷんぷんするし、ミツメとかスカートとか、中川さんも入れてしまおう!そういったものすごい才能を持った同世代組がメジャー第一線でばんばん活躍してほしい!そうなる日は遠くない!と、大いに期待しています!どのバンドも武道館とかでみたいし!