「イノマーロックフェスティバル」のオナニーマシーンのライブのこと

 その日のオノチンは出演前から明らかに挙動が変で、サンボマスターが、熱情が音を突き動かすような最高のライブをやり終えたところでステージに飛び出そうとして制止されていたり、出演前のリハ中も自らギターを触りに行って戻されたりしてて、背後のお客さんも「オノチン酔っぱらってるじゃん」とか話してて、私もそう思ってた。まさしく千鳥足というに相応しいヘロヘロな足取りでステージを行き来してた。

 いざオナニーマシーンの出番でプリンセスプリンセスの「19 Growing up」がかかって、かかってるにも関わらずワンコーラス終えても誰も出て来なくて、なんならそろそろ曲が終わりかねない頃にようやくガンガンさんとオノチンが出てくるんだけど、オノチンはステージに連れられても袖に戻って、またステージに連れられてもすぐ袖に戻って、それを何度も繰り返してなかなかステージに立とうとしなかった。ようやくステージに立っても曲に向き合う感じでは決してなかった。ベースこそ録音?が鳴っているもののボーカルはいない。どういう取り決めがあったのかは知らないけど、「あのコがチンポを食べてる」「ドーテー島」はほぼガンガンさんがボーカルをとってた。

 江頭2:50さんが登場しても「きょうイノマーがどっか行っちゃって…悪い風邪になったみたいで…」などと聞き取れない言葉を繰り返し江頭さんに正され、「俺を突っ込みしてどうするんだ!!」となんとかステージをやり遂げようとする江頭さんそっちのけで暴走を繰り返すオノチン。台本ではここでベースにtheピーズのはるさんを、ボーカルに銀杏BOYZの峯田くんを迎え入れ、イノマーが最高に喜ぶかたちでオナニーマシーンとして演奏するはずだったはず。でもオノチンはなかなかゲストを呼ばない。なんとかはるさんが登場しても峯田くんを紹介しようとしない。痺れを切らした峯田くんが気を利かせて「遅いよ!!!!」と登場してもバツの悪い顔でそこには乗ってこない。それでもステージを進めないといけないから、全員がオノチンの挙動を見守るかたちでなんとか演奏を促すも、「チンチンマンマン」の冒頭のリフを弾かない。弾きこなそうとしない。もうオノチンのリフがどうあれみんなが無理やり演奏を強行する。なんとか演奏し終えるものの今度はオノチンが峯田くんに近づき、そのまま抱き着いて離れなくなってしまった。
 2人の姿をモニターがアップにする。オノチンも峯田くんも何かをしゃべってるんだけど、何をしゃべってるのかはわからない。オノチンの表情は峯田君の胸に埋まっていてわからない。峯田くんは怒っているような、泣いているような、絶望と同情が入り混じっているみたいな表情をしてて、どういう状態なのか本当にわからないまましばらくてふと、「だから言ったじゃん!」という峯田くんの声をマイクが拾った。「だから言ったじゃん」--????

 峯田くんが放ったのは、「だから言ったじゃん、そんなに飲むなって」なのか、「だから言ったじゃん、イノマーはもういないって」なのか、分からないし、そもそもこの時のオノチンの状態も気持ちは私にはわからないんだけど、2019年10月23日以来、2年以上ぶりにオナニーマシーンがステージに立って、ようやく「イノマーは本当にもうこの世にいないんだ」って私も初めてすごくすごく痛感した。イノマーはなぜか私のことを「クリちゃん」と呼んでいて、いつもアトピーの身体を搔きながら「クリちゃん何やってんの」てニヤニヤしてて、あそっか、猪股さんはもういないんだなってようやく理解して、初めて涙が出た。当事者にとってみたら、このダメージは思っている以上のしんどさなんだろう。この日、オナニーマシーンが演奏をしたら、いよいよオナニーマシーンイノマーを失ったことを目の当たりにしてしまう。正直、ガンガンさんオノチンに加えてはるさんのベースと峯田くんのボーカルなんて音楽的に豪華すぎるしめちゃくちゃ聴きたいじゃん。でもそうしたらイノマーはもうオナニーマシーンに戻ってこれなくなっちゃうんじゃないかって、イノマーが帰ってくるまで俺がイノマーの場所を守ってみせるって、オノチンはあのステージでたったひとりで抵抗していたんじゃないかなって。最後はステージに全員集合して「I LOVE オナニー」と「オナニーマシーンのテーマ」を演奏した。オノチンはギターを弾いているものの、ステージから降りてしまう。すかさず峯田くんが気づいて引き上げてステージに立たせる。何度も「きょうイノマーがどっか行っちゃって…悪い風邪になったみたいで…」と繰り返し、ずっと挙動不審で、最後の最後までどうしたいのかわからなくって、仕舞いには氣志團の翔ヤンに「どうしたいの!笑」て突っ込まれてた。で、ん、これで終わりか?アンコールがあるのか?というよくわからない空気の尻すぼみで「本公演はすべて終了しました」という会場アナウンスが響いた。よくわからなかった。終わったのか、そもそも始まってたのか、なんかよくわからないライブだった。音楽的には最低だと言えるだろう。でも私は、イノマーがずっと繰り返してた「氣志團のライブを見て、生半可な気持ちでステージに立っちゃいけないと思った」という言葉を思い出してた。イノマーが誰よりも大事にしていたステージを、オノチンはたった一人で守った。イノマー不在のオナニーマシーンを決して始めず、終わらせなかった。よかったねイノマー、大事な場所を、大事な仲間が残してくれたよ。最高じゃん!って、港の灯りを眺めながら、初めてオナマシが脱いだ時の吉祥寺WARPのライブを思い出してたんだ。

おしまい。