『LEM-on/RE:mum-ON!!』のこと

マームとジプシー
坂あがりスカラシップ2011対象公演
『LEM-on/RE:mum-ON!!』


マームとジプシーを京都でみれるということ、それ自体が夢のような、幻のような、白昼夢のような体験だったんだなぁといまは思います。旧立誠小学校の雰囲気、そして京都という街全体の雰囲気、日常に溶ける非日常の裂け目に紛れ込んだみたいだった。思えば、「檸檬」という小説は、つまりそういうことだよなあとか思ったり。



和室にて「Kの昇天檸檬を投げているシーン


今回のマームとジプシーは梶井基次郎檸檬」を原作にした公演だったため、大きなテーマは「浮浪」。職員室にてプロローグをみたあと、ゾロゾロと移動し2階へあがり、好き好き散り散りに、梶井基次郎の作品のタイトルがつけられた教室、そして階段や廊下で行われている「行為」に遭遇するというつくり。2階が終了すると3階へ、3階が終了すると屋上、そしてふたたび職員室へ戻ってエピローグを鑑賞する。爆音で音楽が流れているなかをゾロゾロと徘徊するお客さん。に、紛れて、マームの役者さんたちが行為を行っている。歩く、走る、座る、しゃべる、踊る、さまざまな行為で、旧立誠小学校と一体化している。
3日間という時間のなかで、昼と夜、そして晴れの日と雨の日、それぞれまったく違う表情で、校舎は役者さんを受け入れる。明治2年に開校した旧立誠小学校には、実に200年以上、生徒を受け入れ、輩出し、受け入れ、輩出してきた歴史がある。何人ものこどもたちが、ここで笑ったり泣いたり、ケンカしたり勉強して生きていた。ずらっと飾られた卒業生たちのモノクロの写真。まるで時が止まったままの校舎のなかで、教室のそこここで舞う役者さんたちは、いつまでもこの学校に棲んでいる幽霊のようにも見えた。



城のある町にて


「闇の絵巻」


「彷徨」の一部


Kの昇天」昼の風景


Kの昇天」夜の風景


マームとジプシーの作品にはいつも「記憶」への落とし前が横たわってるように思うけど、今回は、この場所で公演を行ったことによって引っ張られた記憶、が何度もリフレインされていた。登校、下校、転校、飼育小屋のうさぎの死、経血。小学校のころの、何気ない、抗えない、強烈な出来事の数々。それが親戚の死、による帰省のなかで、地元に足を踏み入れたことによって、よみがえってきた。記憶を覆うために付き合っていない女と性行為に及び、自己嫌悪に陥り、排水溝のように淀んでいく自分の日々を自白する。淀んだ日々は、かつて読んだ小説とリンクしていく。そうして、享年32歳の梶井基次郎と、現在26才の藤田貴大は出会う。でも、そんなこと「知ったこっちゃないわ!!!」と尾野島慎太朗が言い捨てると檸檬がポーンと飛んでくる。受け取って「木端微塵だわ!!!!」を合図に、非日常のささくれが裂けて、世界が動き始める、カウントが合唱される、「そうだ、出ていこう!」を合図に綿密なフォーメーションで動き、声を発する総勢10名の役者さんの運動は、さながらオーケストラの大演奏のような迫力でこちらの身体に鳴り響いてきた。圧巻だった。


昨年、藤田貴大さんが行った「producelab89<官能教育>犬」でも、演じている人物と役者本人のパーソナリティとを舞台上で交錯させて、現実非現実の境界をあいまいにしていたように思うけど、今回も、役者さんたちに年齢を告白させたあと「役者みたいな、あいまいなことやってまーす。親に迷惑かけてまーす」と言わせていた。特に尾野島慎太朗さんに至っては、尾野島慎太朗もの役も、藤田貴大の役も、梶井基次郎もの役も、みんな託されていた。要するに、今までのように、喪失の記憶をみなで確かめて再生していく作業ではなくて、時空を超えて、個々の記憶が飛び交っているのを眺めている作業、に思えた。リフレインと交錯のはざまで、どんどんと、自分の記憶がぬりかえられ、現実と非現実の境界が薄れていく、感覚を犯されるような作品だった。






かつてトークで「時間とかもあるから一応終わらせるけど、本当は舞台を終わらせたくない」というようなことを藤田さんがおっしゃってたんだけど、この作品の最後では、尾野島さんが「皆さんは、この校舎を浮浪、してきたわけですが、いかがでしたかー?まぁ、そんなことはどうでもいいんですけど、とりあえず言っておきまーす。これからも、マームとジプシーをよろしくお願いしまーす。と、藤田が言っていまーす」というセリフを吐いていた。素、に近づいていた。素、であれば終わらせる必要がない。だから藤田さんは「今回の、とりあえずの、帰りの合図です」と言って、この作品を終わらせた(尾野島さんがセリフを飛ばしてる回もありました)。


個人的にはもう、吉田聡子さんのことがめちゃくちゃ好きで好きで。彼女の身体能力と性の匂い、生きる人間のにおい、なんだかたまらなくて、愛しいと切ないがごちゃまぜになってしまう。
「そうだ、出ていこう!」で馬跳びを繰り返すときの、まっすに前を見据えるさま、「冬の蠅」で、誰もいない教室でずっと舞っているさま、でも最終日の最終回にはいよいよジャンプができなくなって、苦しそうにジタバタしているさま(この教室は高山玲子さんが下着を露わにしながらでんぐり返って「冬の蠅」を表現するんだけど、その脇で疲れ果ててほとんどジャンプができてないのに舞っている、吉田さんの姿に「冬の蠅」を見出しました)。とにかくずっと吉田さんにいる教室をめざして浮浪していました。



「冬の蠅」の吉田さん。時計は10時を指している


あと、廊下を何度も往復しながら「役者みたいな、あいまいなこと、やってまーす」とセリフを吐き続ける尾野島さんに対してずーっとくっついてずーっと話かけてるお客さんがいてめちゃくちゃ鬱陶しかった。彼はきっと、役者さんを舞台から引きずりおろしたかったんでしょうけど、その方法に知性もセンスもおもしろみも感じられませんでした。結果的にはほかのお客さんの迷惑になっていた(私のほかにも怒ってるひといました)。でも、最終日の最終回、飴屋法水さんのお子様のくんちゃんがステージにふわっと舞い、準備運動したり精神を集中したりしてる役者さんひとりひとりに握手をしてまわっていて、いとも簡単に境界を超えていたのが印象的でした。



誰もいない教室で黒板に絵をかいてるくんちゃんと藤田さん。


黒板に描かれてたもの!


マームとジプシーの次の公演はこれ、「マームと誰かさん」!

5月-7月 マームと誰かさん@SNAC

今年5月〜7月にかけて、三ヶ月連続で作品を発表します。
通常の作・演出藤田貴大の発表ではなく、豪華な誰かさんとコラボレーションする事になりました。ぜひぜひ、ご期待くださいませ。

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◎マームと誰かさん・ひとりめ
大谷能生さん(音楽家)とジプシー
2012年5月11日(金)ー13日(日)@SNAC(清澄白河)

▶出演
青柳いづみ 波佐谷聡

▶スケジュール
11日(金)16時/19時
12日(土)17時/20時
13日(日)17時/20時
*当日券販売は開演の45分前、ご予約受付・開場は30分前からになります。
*当日券はキャンセル待ち含め、立ち見になる可能性がございます、予めご了承ください。
▶チケット
ご予約 2000円+ドリンク代
*1ドリンク制となっておりますので、必ずドリンク代は頂戴致します。
当日券 2500円+ドリンク代

<チケット予約開始>2012年4月30日11:00〜