住所不定無職『GOLD FUTURE BASIC,』のこと!

GOLD FUTURE BASIC,

GOLD FUTURE BASIC,


仕事が忙しすぎてずーっと書きたくて書けなかった住所不定無職の『GOLD FUTURE BASIC,』!
こーーーれーーーはーーーー泣く子も黙る名盤ですね!!小西康晴つんく♂も泣いて悔しがる名盤ですね!!!SOUL&ファンキーディスコなキラーチューンをこのつたなさでこの迷いのなさでこの勢いで1枚やっちまい切る住所不定無職のテンションに全人類が平伏すべきだ!!!(ゼイハー)



「ジャカジャーン!」がやりたかったという理由でチューニングもできないままバンドを組んだガールたちは、その初期衝動MAXの熱い魂を熱いうちに自らのルーツにブッ込んでしまった。つまりこの作品は、フルテン「ジャカジャーン!」のいきおいでソウルやディスコやルーツロックや、それらを呑み込んだ90年代ポップスの極上を、さらにその上からぱっくり呑み込んでキャーキャー言いながら吐き出したような楽しくてカラフルな作品なのだ。
驚くのはただただ底抜けに明るいこと。「粋な博士のいたずらに、あの日飛ばされたんだ、12インチのタイムマシン」という歌詞からわかるように、彼女たちのルーツのど真ん中に渋谷系ムーブメントがあることは明らか(ヘッド博士)。でもね思うに、いわゆる渋谷系の音を鳴らそうとしたらもっとマニアックかつ頭でっかちになっちゃうと思うんですよね。サウンドプロダクションの大海に溺れてしまうと思うんですよね。少し前に某声優さんのアルバムがリリースされたとき、その参加グループを擁して「渋谷系リバイバル」みたいな動きがあって、まさに、わたしなんかは「えー」とか思ってたんですけど、わたしが履き違えていままで生きてきただけかもしれないんだけど、少なくとも自分のなかで、渋谷系っていうのはサウンドのことじゃなくって、アティテュードのことなのです。好きなものたちを呑み込んで血肉にして新たな到達点へたどり着こうとするつまりさらなる極上ポップミュージックを生み出そうとするアティテュードそれが渋谷系のムーブメントなのですよ。自分にとっては。ネオアコみたいな音をキラキラさしてコーラスがパパパ〜ってたら渋谷系なんてヘソが茶を沸かすぜ!お前ら90年代の出がらしか!なんて意地の悪いことを思ってしまうわけです。当時からそういうバンドめっちゃいましたけどね。おれはそんな気持ちで太田さん(exHMV渋谷店長)のクソみてえな7インチを買ったわけじゃねえ! いかに♪パパパ〜に必然性を出せるか!いかにサンプリングにいのちを芽吹かせるか!それがおれの愛した渋谷系じゃ。だから、住所不定無職の『GOLD FUTURE BASIC,』を聴いたときは本当にわくわくしてしまって。一聴してまず「これこそが2013年の渋谷系の音だ!!!!!!」と心がおおいに躍ったのです。元ネタがまるわかりな身も蓋もないアレンジにだって、彼らが鳴らすべき必然が宿っている。住所不定無職にしか生めないポップミュージックakaキラーチューンに昇華されている。かつですよ、それを、このテンションでやりきっちゃってるんだから、そりゃー名盤ですよ。小沢健二の『LIFE』が引き合いに出されるのも頷ける。だって、こんなテンションでこんな極上キラーチューンが歌えるひとの登場を、みんなずっとずっと待ってたんじゃないか。


ともすれば「下手」ととらえられるユリナちゃんのボーカル、まぁ確かに下手に聞こえるんだけど、ユリナちゃんは本当は、本当に歌唱力がとんでもないのです。これは一緒にカラオケに行ったことがあるから知ってることなんだけど(笑)。まじでくっそうまい。音程も技術も抜群なのですよ。それが、なぜ音源で反映されてないのか。これわたし、あの歌唱力をもってしまうと、住所不定無職の底抜けの明るさが半減されちゃうからに他ならない、と思うのですよ。実際どこまでゾンちゃんのコントロール下におかれてるのか不明なんですが、住所不定無職の楽曲は、ひたすらキーが高い。たぶん常人には歌えないレベルで。ユリナちゃんの歌唱力だからこそ歌えてる。いわゆる小室哲哉華原朋美プロデュースと同じ構造ですね。朋ちゃんは本当はくっそうまいんだけど、小室が「揺らぎ」を出すために、あえてハイトーンの誰も歌えないレベルの音階に、朋ちゃんの歌唱を置いてるわけです。ゾンちゃんは、住所不定無職の明るさ、楽しさ、その勢いを消さないために、ユリナちゃんの歌唱を、あえてそこに置いてるんじゃないのかな。て、わたしは推測している。だからねぇ、ユリナちゃんのボーカルを批判する評論なんて、まったくもって論外ですわ。音楽評論家がこぞってそんなこというのバカらしい。この時代に、これだけのテンション&パッションを音に封じ込められるのはアイドルか住所不定無職だけなんだから、そこを尊重すべきだよ。必然に耳をかたむけろってんだい。


そして誰も指摘しないから歌詞において自分で言わざるを得なくなった自らのルーツの羅列その系譜をちゃんと引き継いだゾン子のキラーチューン生産能力はもう十二分にわかってる才能だったけど、アルバム1枚つくっても息切れしないそのポップライターっぷりにはたまげたし、歌詞のリズム感にも磨きがかかってる。「ロッケンローとちょっと恋の香りしたら弾かれて」の♪んロッケンロっとちょっとこっい〜の、か、おーり、しったっらはっじっかっれて〜をまさに舌で弾くたのしさったら、日本語で歌う気持ちよさの新境地を切り拓いたといっても過言でない。ネイティブ英語に空耳するような耳触りではなくって、ありのままの日本語の音を愛して、島国コンプレックス皆無であっけらかんと言語をリズムに刻む。そんな住所不定無職の16ビートのさばき方には興奮したし、かつ、それだけリズムに意識的でありながら、同じ16ビートの「ムーンライト・シティ・トーク」の言葉の抜き方にわなわな震えた。やばいよもう♪クッ、レえッッ、シェ、ン、ト、で、の行間にリズムをなびかせるメロディとの相性が抜群すぎて、あぁもうこれはゾンちゃん達郎になるんだな、と強く思ったわけなのです(性転換!)。「月曜21時に恋してる」の語彙力やストーリーテラーっぷりにも驚いた。ゾンちゃん、歌詞までもここまで書ける女だったとは!


しかも遊び心も満載で、「Criminal B.P.M」の冒頭、ヨーコちゃんが♪クリミナ〜ルトーキョー!て叫んだあとに「あなんだ!」てリスペクト後藤真希が発動するし、同じく「Criminal B.P.M」の間奏にてユリナちゃんとシ・ウォンチュとの会話

ユ「なんかポーズしてよ!」
シ「ん〜、わかちこわかちこ〜」
ユ「フッ(鼻で笑う)」


の流れも最高!シ・ウォンチュのヨダレでびしゃびしゃになったみたいな湿り気のあるロリータボイスも最高!これまたいい飛び道具を手に入れたもんだよゾン子のやつ…。とにかくすべての思いつきや悪だくみがいのちを与えられて、ちゃんと鳴っている。そのさまがもう、たまらなくたまんないのです。ポップミュージックを愛していて、そのなかでも小沢健二が『LIFE』の1枚のみ到達できたあのテンション&クオリティを愛していて、そしてそのポップミュージックに希望を抱いているひとは、同じ時代に住所不定無職の『GOLD FUTURE BASIC,』と出会えたこと、誇りに思うべきだ!音楽を信じててよかった!て、声を大にして叫ぶべきだ!ほんと大好きです。肩肘張らず聴けるししょんぼりしたときに憂鬱を吹っ飛ばすパワーをもってる音楽たちです。


しかし、まぁ1stフルヴォリューム・アルバムからこんな遠い場所へ、もとい深い場所へ、連れてこられるなんて、誰が想像したものか…。当時ユリナちゃんは「楽器ができなくたってやりゃいいんだよ!」て言ってたけど、今にして思えばあれは揺るぎないセンスに裏打ちされた確固たる自信だったんだな。どんっなに楽器が下手くそでも、愛と情熱とセンスさえあればこっちのもんだい!って鼻息荒くまくしたてる彼女たちの姿が目に浮かぶ…。レコ発もサイコーだったや!